ライセンスボクサー
結局のところ、自分にとってのモダンジャズは、マイルス・デイビスと、
ジョン・コルトレーンに尽きるってことが、最近やっと分かってきて、
勿論、他の連中、ダメって訳じゃないんだけど、気が付くと真剣になってるのは、
この二人で、あんたら、ホント凄いよって、いっつも思うんだよね。
そのマイルス、1926年に生まれて91年、65才で死んだんだけど、
早いなあ、もう20年近く前になるんだよなあ。
彼元々は、歯医者の息子に生まれて、ジュリアード音楽院出たセレブなんだけど、
18才の時、チャリー・パーカーに、おめえ凄えじゃねえか、って言われて、
ニューヨークに出てって、パーカーのバンドに入ったんだけど、
21才の時に、初リーダーレコーディングしてからは、終生、リーダープレーヤーで、
その後のジャズシーン作った、何人ものジャズジャイアント育てたんだわ。
途中、50年から54年まで、麻薬に苦しんで、それ、一人で克服したエピソード、
自伝本に書かれてあるけど、もう壮絶としか言いようがないほどなんだよね。
“最後は、全身の毛穴という毛穴から、ヤクが抜けってたぜ” って言ってた。
ライブコンサートでも、その場で勝手に演奏曲目決めるって手法だし、
どの位の長さでやるか、どんな展開にするかってのも、その時の気分次第で、
観客の万雷大拍手浴びても、アンコール、一切なかったし、
そもそもレコーディングも、事前に何の打ち合わせもしないで、いきなり始めて、
ピアノイントロ、アルペジオでスタートした、名手レッド・ガーランドに、指笛一発、
“おい、ブロックコードでやってくれ!” ってシャガレ声で怒鳴って、
もうカッコイイったらないのさ。
ルイ・マル監督に、映画音楽頼まれた時も、勿論、何の準備もしてなくて、
フランス行って、フィルムのラッシュ見ながら、その場の即興一発で吹き込んだのが、
“死刑台のエレベーター”なんだよね。
最初のワンフレーズ、震えがきたの、憶えてるなあ。
彼、ビブラートもハイノートも使わないで、つまり、全ての技巧や装飾排除して、
いかにシンプルに表現するかに徹してて、そこから出て来る極限に挑戦してて、
お前に、これが分かるかって感じで、自分の心をブスブス差したんだよね。
1960年前後、アメリカが、人種差別問題でまだまだ混沌としてる頃、
リー・コニッツとか、ジェリー・マリガンとか、白人達をメンバーに入れた時、
黒人ファン層からブーイング酷かったんだけど、そん時、彼言ったんだわ。
「いいプレイするヤツなら、俺は肌の色、緑色のヤツでも雇うぜ。」 ってね。
彼、最後までこんな調子で、キッチリ一本筋通ってて、ずっと憧れだったんだよね。
もっともっと、彼の事で書いておきたいこと一杯あるんだけど、
そろそろ表題に行け、って声も聞こえてきそうなもんで、また別の機会に……。
ボクサーランセンスなら分かるけど、ライセンスボクサーって何?ってことなんだけど、
自分がここで言うライセンスボクサーってのは、ライセンス取ることだけ目標にして、
試合するつもり全くないか、あっても記念に一回だけっていうボクサーのこと。
そんなのいるのかってことなんだけど、実は結構いるみたいなんだよね。
ランカーごそごそ、女子はいません、ボクササイズはやってません、
なんていうハードなジムには関係ないかも知れないけど、
カッコいいからボクシングやってみよう、だけど、プロになるつもりはない、
友達に自慢できるでしょ、ってノリで、ジム通いしてライセンス取る子も多いみたいよ。
JBCは、ジムスタッフ関係者にはゴールド、ボクサーにはシルバーの、
それぞれライセンスカードを年一回発行するんだけど、
シルバーのボクサーライセンスには、A級も、B、Cもなくて、みんな一緒だし、
一度取得すると、更新料さえ払えば、37才まで持ってられるし、
例え更新しなくても、没収されるってことないみたいだから、
それこそ一生モノで、いわゆるハク付けにはなりそうだよね。
“俺さあ、元プロボクサーなんだわ” って自分、一回言ってみたかったもんなあ。
こういう、初めから全く試合するつもりない、ハク付けボクサー山ほどいるらしくて、
自分、仕事で知り合った中に、一人だけいるけど、
彼、大事そうにカード持ってもんなあ。
それから、取り敢えず一試合だけやってみる、一試合だけにするっていう、
つまり、記念ボクサー、思い出ボクサーっていうのかなあ、自分二人知ってて、
一人は、角海老ジム関係の体のメンテやってるとこの、院長の伊藤さん。
この人、リングネーム、“伊藤院長” って、そのままで出てきて、
トランクスの後ろに、“お大事に” って刺繍入れてて、あれは笑ったなあ。
でも彼、確かライト級くらいで出場したんだけど、驚いたことに、おフザケじゃない、
真っ当なボクシングで、見事TKO勝ちしたんだわ。
可能性充分だと思ったんだけど、仕事に支障きたすってことで、あの一回だけ。
それでも、ボクサー経験、絶対仕事に生きてると思うなあ。
あと一人は、後楽園ホールの係員の子で、これもウェルター位の重いクラスで、
彼は、判定勝ちだったみたいだんだけど、残念ながら見逃してしまったもんで、
もう一回だけやってよ、って頼んだんだけど、頑なに拒んだんだわ。
リングに上がって来るデビューボクサー、毎年沢山いるんだけど、
これが、一回きりボクサーなのか、いやいやランカー狙いなのか、
こっちとしては、全く分かんないんだけど、
あの子凄かったけど、どうしたかなあ? っていうのや、
おおお、君、また出てきたのかあっていうのやらがあって、
デビューボクサー見るのって、これで、色々楽しめるんだよね。